「ボスト・トゥルース」勝利の時代――兵庫県知事選
2024-11-18


ことの起こりは、3月に元西播磨県民局長が、斉藤知事(当時)のバワハラや贈答品受け取りなどの疑惑を匿名で内部告発。知事は告発者を特定しようとし、県幹部を叱責。追いつめられた県民局長はなぜか「死亡」(内部告発者は法的に保護されることになっているが、ここでは告発された知事が職権でまず告発者の特定を部下に命じた――明らかな法令違反)。

 疑惑内容などを調査するため、県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置。県議会は86人の全会一致で不信任案を議決。しかし斉藤知事は辞職せず、失職することを選んだ。不信任議決を受けて辞職すると次の県知事選には出にくいが、「意に反して辞めさせられた」なら出直し選に出られる。議会より自分が正しかったのだと主張して。
 失職当日の朝から、斉藤元知事はJR須磨駅前に立って通勤客に1人で頭を下げた。
 そこで始まった「県政出直し選挙」。
 選挙には稲村和美元尼崎市長が立候補、斉藤前知事を組織的に推した維新の会からは元参議院議員の清水貴之が立ち、その他4人が立候補したが、なかでもNHK党創設以来選挙荒らしを続けてきた立花孝志が、斉藤を勝たせるためといって出てきた。

 この選挙は、パワハラ等内部告発者を追い詰めて自殺させるような知事は辞めてもらって代わりにまともな知事を選ぶための選挙だったはずだ。ところが私は悪くなかったという知事(改心のかけらもない)が、途中から実は悪くなかった、はめられたのだ、彼の志を遂げさせよう、という機運がしだいに盛り上がり、斉藤前知事が汚名を晴らす選挙になってしまった。
 
 どうしてこんなことになったのか?
 「斎藤は、失職したその日からほぼ毎日、県内各地の駅前に立った。
スーツ姿で多くは語らず、駅へ向かう人にただひたすら深々と頭を下げ続けた。
 最初のころは立ち止まる人がまばらだったが、斎藤の街頭活動をよく見に来る10人ほどがいた。のちにこのメンバーを中心に斎藤を支援するボランティアグループが結成された。
 メンバーによると、SNSで斎藤の活動の様子や失職の経緯などを積極的に拡散したのだという。また別のグループでも斎藤の動画や写真を頻繁に投稿する動きがあったと話した。
 失職から1週間ほどたったころには、神戸などの都市部では斎藤のまわりに多くの人が詰めかけるようになり、サインを求める人まで相次いだ。」(NHK WEB特集)
 
 具体的には、立花孝志が斉藤の前後の演説で「マスコミはウソばかり」「斉藤さんは県議にはめられた」と訴え、「パワハラなどなかった、告発した県職員は調査で自分の不倫問題がバレるのを恐れて自殺した…」などと主張し――内部告発者を誹謗中傷するのはいつも権力が使う違法手段――、それをYoutubeで発信するだけでなく、例の統一教会系の『世界日報』が印刷媒体で広めた。そう、統一教会だ。
 「斉藤を支援するボランティアグループが結成された」というが、このグループには「同級生」だけでなく、選挙を技術戦略的にサポートする集団も入っていただろう。たとえば、東京都知事選で石丸某を押し立てて蓮舫を一敗地に塗れさせた選挙プランナーのような。
 
 斉藤は一見ワルのようには見えない。それに自分が悪いとは思っていない。自分は適切に振舞ってきた。知事になったらその地位・権力は当然備わっているものなのだから、部下(単なる職員)が自分の意向に従うのは当然だ。それに自分は賢い。そう言われてきたし率直だとも言われてきた。だから物わかりの悪い(あるいは旧弊にばかり従う)部下を叱ったり足蹴にしたりするのは「教育」だ…。そう素直に(?)思っているから、腹に含むところのあるワルには見えない。ただ、「反省」というものが根っから欠けているだけなのだ。


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